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DXに成功する会社と失敗する会社の違い

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が広まって、もう何年も経ちます。多くの企業が取り組み、しかし、うまくいった会社と、途中で頓挫した会社に、はっきりと分かれているように見えます。実際、日本企業の約70%がDX推進に課題を抱えており、その多くは技術面よりも組織変革の難しさに直面しているというデータもあります。

出典:経済産業省 DXレポート

この違いは、どこから生まれるのでしょうか。今回は、成功する会社と失敗する会社を分けるものについて、考えてみたいと思います。

まず、DXとIT化は違う

話を始める前に、ひとつ前提を整理しておきます。DXとIT化は、似ているようで、目的がまったく異なります。

IT化とは、既存の業務をデジタル技術で効率化することです。紙の帳票をデータにする、手作業をシステムで自動化する。業務を、より迅速に、より小さなコスト・労力で遂行するための取り組みだといえます。

一方、DXはもっと広い概念です。ビジネスモデル自体を変革し、新たな価値を創出することを目指すもので、その射程には顧客にとっての価値まで含まれます。たとえばアマゾンが書店からあらゆるものを売るプラットフォームへ進化したように、デジタル技術で顧客体験を根本から変え、新しい収益源を生み出すのがDXの本質です。

つまり、DXは顧客価値の向上までを射程に入れて考えるため、その実現プロセスの一部としてIT化を含んでいる、という関係になります。IT化はDXの中に入っている。けれど、IT化だけではDXにはならない。この入れ子の関係が、後の話の鍵になります。

多くの会社は、DXと言いながらIT化を考えている

この前提を踏まえると、ひとつのズレが見えてきます。

「DXを検討している」という会社の話をよく聞くと、実際に意図しているのはIT化であることが、かなり多いのです。老朽化したシステムを刷新したい、業務を効率化したい——。経産省が「2025年の崖」として警鐘を鳴らしたレガシーシステムの問題もあり、その必要性は本物です。けれども、それはDXの入口ではあっても、DXそのものではありません。

このズレを抱えたままDXの議論を始めると、何が起きるか。話の中心が、どうしても「いまある業務をどう効率化するか」になっていきます。実際、日本企業の多くは社内の業務効率化を目指す「守りのDX(IT化)」に終始し、顧客体験の変革や新しいビジネスモデルの創出を目指す「攻めのDX」に踏み込めていないと指摘されています。

IT化起点のDXは、なぜ頓挫しやすいのか

ここから、失敗する会社の力学を見ていきます。

議論が現状業務の効率化に向かうと、舞台は「現場」になります。今のやり方のどこを変えれば速くなるか、楽になるか。ところが、効率化というのは、それ自体に一定の負荷がかかるものです。新しいやり方を覚え、慣れた手順を捨てなければなりません。すると、「今のままで困っていないのだから、変えないほうがいい」という声が、必ず現場から出てきます。

こうして、社内を動かす力学は現場改善の一点に集中します。そして、その現場が反対すると、プロジェクトはあっけなく止まります。実際、DXのよくある失敗は、経営層の理解不足、現場との連携不足、IT導入が目的化してしまうことだとされます。効率化のためのIT化は、便益が現場の負担と直接ぶつかるため、現場の同意が得られなければ前に進めないのです。

顧客価値起点のDXは、現場の抵抗をどう超えるのか

では、顧客価値を起点にしたDXはどうでしょうか。

こちらは、出発点が違います。「今のやり方をどう改善するか」ではなく、「顧客にとって何が一番よいか」から考えます。ですから、そもそも現状業務の改善という発想が、議論の中心にありません。顧客価値を突き詰めた結果、現場の仕事のフローを大きく変えることになる可能性も高く、当然、現場の抵抗心は、IT化のとき以上に大きくなります。

一見すると、こちらのほうが頓挫しそうに思えます。けれども、ここに逆転があります。

議論の旗印が「現場の効率化」ではなく「顧客価値の向上」になっていると、反対の意味合いが変わるのです。現場が「面倒だ」と抵抗しても、その先に「でも、そのほうが顧客にとって良いよね」という共通の事実があれば、話は「やるかやらないか」ではなく「どうやるか」に移ります。現場も、顧客のためだと納得できる変化に対しては、抵抗はあれど、最終的には追従せざるを得ないという意識になります。反対の拠り所が、なくなるからです。

IT化起点では、変える理由が「効率」しかないため、現場の「困っていない」に負けます。顧客価値起点では、変える理由が「顧客」にあるため、現場の都合より優先される。同じ「現場の抵抗」でも、超えられるかどうかが変わってくるのだと思います。

つまり、DXも手段でしかない

ここまで来ると、成功と失敗を分けるものが見えてきます。それは、DXのうまさや、ツールの選定や、予算の大きさではありません。「顧客にとって何がよいか」を本気で追求する目的志向が、その会社にどれだけあるか、です。

DXは、目的ではなく手段です。顧客価値という目的が明確な会社は、DXをその実現手段として正しく使えます。だから成功しやすい。逆に、目的が曖昧なまま「DXをやること」自体が目的化すると、議論は効率化に縮こまり、現場で止まりやすくなります。経産省のレポートが、デジタル産業の姿を価値創出の全体にデジタルを活用し、顧客とつながってエコシステムを形成している状態と描いているのも、結局は同じことを言っているのだと思います。

最後に:第一歩は、自社を見つめ直すこと

では、これからDXに取り組む会社は、どうすればよいのでしょうか。

もし「IT化やDXを進めたいが、社内を動かせる自信がない」という懸念があるなら、ツールやベンダーを探す前に、見つめ直すべきことがあるように思います。それは、自社がいま解決したいのは、現場の効率改善なのか、本当に顧客価値の追求をしたいのか、という問いです。

DXを志向しているが社内が動かないケースは、変化の旗印が「効率」に切り替わっていることが多いです。もし社内の誰もが「これは顧客のためだ」と心から思える目的を共有できていれば、現場の抵抗は、超えられない壁ではなくなります。逆に言えば、その共通の目的をまだ持てていないとしたら——DXの前に、まずIT化を進めることが、第一歩だと思います。

DXに成功する会社と失敗する会社の違いは、デジタルの巧拙ではなく、その手前にある「顧客への向き合い方」への意識差にある気がします。

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