起業するためにお金よりも必要なこととその理由

「起業に一番必要なものはなんですか?」と問われたら、多くの方が「お金」と答えるのではないでしょうか。資本がなければ人も雇えず、製品もつくれない。だからまず資金を集める。とても正しそうに見える発想です。
ただ、起業の現場を見ていると、少し違う景色も見えてきます。お金は確かに必要です。けれども「一番」かというと、どうもそうではないように思います。
「資金切れ」は死因に見えて、死因ではない
スタートアップの失敗理由を調べた調査では、その多くで「資金が尽きた」が上位に挙がります。米国のCB Insightsが数百社の事後検証を分析した結果でも、「資金が尽きた」が最も多く挙げられる失敗理由となっています。
出典:CB Insights
ところがそのレポート分析では、こう続いています。資金切れはたいてい「最後の死因」であって、根本の問題ではない。本当に効いているのは、製品が市場に合っていない、タイミングが悪い、採算が取れない——そうした手前の問題のほうだというのです。
あるベンチャー投資家の言葉を借りれば、資金が尽きて死んだというのは、「出血多量で亡くなった」と言っているようなもの。では、その傷はどこでついたのか。お金が消えたのは結果であって、原因は、もっと手前にあるように思います。
資金は補給できる。けれど思いは補給できない
その「手前」とは何でしょうか。ひとつは戦略、つまりデータが示した「市場ニーズの不在」です。そしてもうひとつ、今回お伝えしたいのが「思い」です。
なぜ思いなのか。理由はシンプルで、資金は途中で補給できるのに対し、思いは補給できないからです。お金は調達もできるし、借りることも、稼ぐことも、待ってもらうこともできます。けれども、自分が向かう先を信じる気持ちは、外から足すことができません。これだけは、起業した本人の内側からしか湧いてこないものです。
なぜ「持続」が問われるのか
ここで大事なのは、思いの「強さ」よりも「持続」のほうだと考えています。
起業の瞬間、思いが強いのは当たり前です。みなさん、熱を持って始めます。問われるのは、その熱が何年も続くかどうか。なぜなら起業は、すぐには報われない営みだからです。
事業が軌道に乗るまでには時間がかかります。その間、成果は出ず、お金は減り、自分でも「これで合っているのか」と何度も疑う。この報われない期間を歩き続けられるかどうかが、ひとつの分かれ目になるように思います。
この先が見えない暗いトンネルで歩みを止めない人と引き返す人を分けるのは、資金の残高ではありません。資金が潤沢でも、心が折れれば事業は止まります。逆に資金が細っていても、行き先を信じている人は粘れる。粘った先にしか、光が見える出口はないのです。
私たちが実施している起業プログラムでも、よくこんな話をしています。「数十年前に戻ってAmazonのモデルを思いついたとしても、今の規模まで育てられる人はほとんどいない」。能力の問題もありますが、それ以上に、「欲しいものをすぐ届けられる社会にしたい」という思いを数十年持ち続け、その前進のために苦境や困難を乗り越え続けること自体が、とても難しいのです。つまり思いとは、トンネルを進むためのエンジンなのだと思います。
「思いだけでは食えない」という声について
「とはいえ、思いだけでは飯は食えない」と思われた方もいるでしょう。その通りです。思いはお金の代わりにはなりません。両方が要ります。
お伝えしたいのは、順番の話です。お金は手段で、思いは目的に近いもの。手段は目的に従います。目的が定まらないまま手段だけを集めれば、その手段は行き先を見失います。冒頭のレポートが映していたのは、まさにこの「目的なき燃料」が尽きていく姿だったのではないでしょうか。
まず行き先があり、それを信じる思いがあり、手段としてお金がある。この順番でこそ、お金は働いてくれるように思います。
だからこそ「何に取り組むか」で決まる
では、その思いはどうすれば持続するのか。気合いではありません。思いが続くかどうかは、結局「何に取り組んでいるか」、つまりWHY MEで決まってくるように思います。
心から「取り組む価値がある」と思える対象なら、思いは自然と続きます。儲かりそうだという理由だけで選んだ対象なら、トンネルの暗さに早々に冷めてしまう。つまり思いの持続は、根性ではなく「選択」の問題だといえます。
お金は努力で集められても、「何に取り組むか」は誰にも教えてもらえないし、その人しか決められないもの。自分の内側を掘って、自分で見つけるしかない。困っている人を見て放っておけない何か、何年やっても飽きない何か。それを探す作業こそ、資金調達より先にやっておきたい第一歩なのではないかと思います。
最後に
起業に一番必要なものは何か。私の考えはこうです。お金は必要です。けれども、それより先に必要なのは、暗いトンネルを歩き続けられる思いであり、その思いを枯らさないための「取り組む対象の選択」だと思います。
順番を間違えなければ、お金は後からついてきます。間違えれば、いくらあっても足りなくなる。そんな傾向があるように感じています。
資金計画を立てる前に、一度だけ問うてみてください。「自分は、何年やっても続けたいと思えることに取り組もうとしているか」と。そこに頷けるなら、その起業は、思っているより遠くまで行けるのではないでしょうか。