小規模起業に必要なスキルとマインド、+α

「起業するなら、まず経験を積んでから」とよく言われます。どこかの会社で実務を覚え、人脈をつくり、業界を知ってから独立する。堅実で、正しそうな順番に見えます。起業の相談の場でも、この前提を持っている方には多く出会います。
ただ、経験は本当に「必要条件」なのでしょうか。今回は、小規模な起業——スタートアップというより、個人事業の延長にあるような起業——に何が要るのかを、整理してみたいと思います。
経験は武器になる。けれど必要条件ではない
結論から言えば、経験は強力な武器になりますが、なければ起業できない、というものではないように思います。
わかりやすいのが学生起業です。たとえば、レシピ動画「クラシル」を運営するdelyは、堀江裕介氏が慶應義塾大学在学中の2014年に創業しています。タイミーも、小川嶺氏が立教大学在学中の2017年に立ち上げた会社です。いずれも、長い社会人経験を積んでから始めたわけではありません。
出典:dely・タイミー 各社沿革
この2社はベンチャーキャピタルから多額の出資を受けて急成長を目指して成功したスタートアップで、短期間で大きくスケールさせています。もちろん在学中の起業であるため、社会人経験すらない中で成功した実例といえます。
もちろん、こうした急激な成長を目指すスタートアップ型の起業でなくても、同様です。「経験の有無は、起業できるかどうかを決める絶対条件ではない」という一点になります。では、経験の代わりに何が要るのでしょうか。
まず必要なのは、最低限のスキル
ひとつは、やはりスキルです。とはいえ、特別な才能という意味ではありません。このスキルというのは学習や経験を通じて後天的に取得することができるものです。
小規模起業で要るのは、自分のサービスを形にして、値段をつけ、それを販売し、お金を受け取り、その記録をつける——この一連を自分で回せる実務力です。商品をつくる力、それを売る力、数字を管理する力。多くは、やりながら身につくものです(逆に言うと、行動しない限り習得できないものでもありますが)。
経験者が有利なのは、このスキルを既に持っているからです。逆に言えば、未経験でも後から身につけられるからこそ、経験は必要条件にならない、ともいえます。
それ以上に問われるのは、スタンス
ただ、スキル以上に大事だと感じているのが、スタンスです。
ここでいうスタンスとは、「自分で動く」姿勢のことです。誰かが指示してくれるのを待つのではなく、自分で考え、自分で連絡を取り、自分で足を運ぶ。当たり前のようでいて、これができるかどうかで、起業後の景色は大きく変わってきます。
なぜスタンスが効いてくるのか。それは、次にお話しする「事前準備」と深く関わっています。
同じくらい大事な+α、それは「事前準備」
スキルとスタンスに加えて、もうひとつ強調したいことがあります。それは事前準備です。とりわけ、起業する前にどれだけ動けるか、という点です。
ここで、見落とされがちな事実を確認しておきたいと思います。会社をつくっても、それだけで売上が増えるわけではありません。法人を設立し、名刺をつくり、ウェブサイトを整える。それ自体は必要な工程ではありますが、1円の売上も生むことはありません。売上をつくるのは、あくまで自分が動いた分だけ、という現実があります。
これは当たり前のようでいて、起業前にはなかなか実感しにくいことかもしれません。「会社という器をつくれば、何かが回り始める」と感じてしまう。けれども実際には、器は器でしかなく、中身は自分が動いて入れていくしかないのです。
だから、最初の顧客を起業前につくる
ここから、ひとつの提案につながります。最初の顧客を、起業する前につくっておく、ということです。
理屈はシンプルです。起業後に動けるかどうかは、起業前に動けたかどうかでだいたい見えてしまうからです。起業前、まだ会社という後ろ盾がない状態で、それでも「あなたから買いたい」という相手を一人でも見つけられたなら、その人は起業後も動けます。逆に、準備期間に一人の顧客もつくれなかった人が、起業した途端に動いて成果を出せる、ということは、残念ながらあまり多くありません。
先ほどのスタンスの話が、ここで効いてきます。最初の顧客を自分の足でつくれるかどうかは、まさに「自分で動く」スタンスがあるかどうかの試金石になります。起業前のこの一歩は、売上の最初の一円であると同時に、自分が起業に向いているかを確かめる機会でもあるように思います。
それでもダメなら、潔くピボットする
最後に、もうひとつ。最初の顧客をつくり、いざ始めてみても、思うようにいかないことは当然あります。そのときに必要なのが、ピボット、つまり方向転換の柔軟性です。
ここで、冒頭の2社の話に戻ります。delyは、もともとフードデリバリー事業として始まりましたが、2015年にレシピ動画へと舵を切ってクラシルを当てています。タイミーも、最初はアパレル関連事業として創業し、約1年で事業転換を決め、スキマバイトのサービスに行き着いています。
出典:dely・タイミー 各社沿革
つまり、最初の構想がそのまま当たることのほうが、むしろ稀なのだと思います。大事なのは、最初の一手を打てること、そしてうまくいかないと分かったときに、こだわりを捨てて素早く打ち直せること。この二つは、規模の大小を問わず、起業に共通して効いてくる力ではないでしょうか。
まとめ
小規模な起業に必要なものを、改めて整理します。経験は武器になりますが、必要条件ではありません。必要なのは、サービスを回す最低限のスキル、自分で動くというスタンス、そして起業前にどれだけ動けるかという事前準備です。
その準備の到達点が、起業前に最初の顧客を一人つくること。そして始めた後は、ダメなら潔く方向を変える柔軟性を持つこと。
起業は、立派な器を用意することではなく、自分の足で最初の一歩を踏み出すことから始まるのだと思います。その一歩を、会社をつくる前に試せるなら、それに越したことはありません。