起業支援

AI台頭によって少数で事業開発ができる時代

最近、「一人ユニコーン」という言葉を耳にするようになりました。たった一人で、評価額10億ドルの会社をつくる——。OpenAIのサム・アルトマンが「AIがなければ想像もできなかったが、これから起こる」と語ったことで、一気に広まった話です。

出典:サム・アルトマン(OpenAI)

派手な話に聞こえます。そして、地方で事業を営む方や、数人で回している中小企業にとっては、どこか遠い世界の出来事に感じられるかもしれません。けれども私は、この変化の恩恵を本当に受けるのは、むしろそうした少人数のプレイヤーのほうではないかと考えています。今回は、その理由を書いてみたいと思います。

これまで、新規事業の壁は「人を増やすこと」だった

まず、これまでの話から始めます。

中小企業や地方企業が、新しい事業を始めたくても始められなかった理由は、はっきりしています。人を割けないのです。今の業務を回すだけで手一杯で、新規事業に専任を立てる余裕がない。専門人材を採ろうにも、都市部の企業との採用競争に勝てない。外注するには予算が重い。「やりたくても、人がいない」。この一言に、多くが集約されていたように思います。

新しいことを始めるには、人を増やすしかない。それが、長らくの前提でした。

いま、その前提が崩れつつある

ところが、この前提が、AIの台頭によって崩れ始めています。

これまで「専任チームがいないから無理」とあきらめていた仕事——簡単なシステムをつくる、デザインを起こす、市場を調べる、文章を書く——を、AIが肩代わりするようになりました。海外では、その威力を示す事例が次々に現れています。

たとえば画像生成サービスのMidjourneyは、創業者デヴィッド・ホルツが2022年に立ち上げ、外部資金に頼らず、従業員わずか十数名で売上2億ドル規模にまで成長しています。一人当たりの売上は、数年前なら考えられない水準です。あるいはBase44というサービスは、創業者マオル・シュロモがAIを使った開発で一人のまま25万人のユーザーを獲得し、6か月で8000万ドルで売却しました。個人開発者が、AIチャットツールやPDF対話ツールを一人でつくり、サブスクで収益化している例も珍しくありません。

出典:Midjourney/Base44

実際、新規事業に占めるソロ創業者の割合は、2017年の17%から2025年には36.3%へと上昇しています。一人、あるいは数人で事業をつくる動きは、すでに静かに広がっているのです。

出典:ソロ創業者割合(2017年17%→2025年36.3%)

ここで生まれる誤解:「AIで人がいらなくなる」

こうした話を聞くと、ひとつの受け取られ方が生まれます。「AIで人がいらなくなる」「省人化できる」という理解です。

たしかに、日本の中小企業のAI活用は、いまのところ業務効率化が中心です。商工中金の調査でも、中小企業の生成AI活用は「人手不足対応・業務効率化」の優先度が高く、「新規事業開発」や「ビジネスモデルの変革」は劣後しているとされます。AIはまず「今の仕事を省力化する道具」として受け止められている、というわけです。

出典:商工中金

それは間違いではありません。けれども、少人数のプレイヤーにとっての本質は、そこではないように思います。

本質は「人減らし」ではなく「人の解放」

AIが本当にもたらすのは、人を減らせることではありません。今いる少数の人材が、人にしかできない仕事に集中できるようになることです。

考えてみれば、AIが肩代わりするのは「実行」の部分です。コードを書く、資料をつくる、調べる。一方で、AIが代われない仕事が残ります。「誰のどんな課題を解決するのか」を見極めること。地元の顧客の声を聞き、信頼関係を築くこと。何をやり、何をやらないかを決めること。

そして、ここにこそ、地方・中小の強みがあります。大企業にはない、顧客との近さです。地域の事情を肌で知り、お客さんの顔が見える距離で商売をしている。これまでは、その強みを新規事業に変えたくても、実行する手が足りませんでした。AIが実行を引き受けてくれるなら、空いた手と頭を、その「顧客への近さ」を活かすことに振り向けられます。実際、ある住宅施工会社では、AI研修の導入から数週間でデスクワークの時間を約50%削減し、人は判断と顧客対応に集中する体制づくりを進めているといいます。まだ業務改善の段階ですが、空いた時間を「人にしかできないこと」に向ける、という方向性は同じです。

出典:田頭建設

それでも、AIは魔法ではない

ただし、ここで冷静になっておく必要もあります。AIは、何でも解決する魔法ではありません。

少人数で事業をつくった海外の起業家たちが、口をそろえて言うことがあります。AIはものづくりの時間を圧縮するが、世間の無関心までは圧縮してくれない、と。実際、ソロ起業家の99%が、最大の問題は製品ではなく「どう知ってもらうか(流通・販売)」だと答えているそうです。さらに、こんな戒めもあります。間違ったものをつくるコストはAIで下がったが、間違ったものを信じてしまうコストは昔と変わらない。だから本番のコードを書く前に、必ず先に売るか、約束を取り付けておけと。

出典:Stripe

これは、AIがあろうとなかろうと変わらない、事業の真理だと思います。何をやるか、誰の課題に応えるか。それを決めるのは、最後まで人です。むしろ、実行コストが下がって誰でも「つくれる」時代になったからこそ、「何をつくるか」「誰のためにつくるか」の差が、これまで以上に成否を分けるようになります。

最後に

AI台頭によって少数で事業開発ができる時代。その本質は、「人を減らせる」ことではなく、「人がいないからできない、という言い訳を手放せる」ことにあるのだと思います。

これまで、地方や中小の現場には、たくさんの「やりたいけれど人がいない」が眠っていました。地元の困りごとに気づいていながら、手が足りずに見送ってきた事業の種が、いくつもあったはずです。AIは、その実行の壁を低くしてくれます。

けれども、AIが低くするのはあくまで実行の壁です。その先で問われるのは、変わりません。地元の顧客を誰よりも理解しているか。その課題を解く事業を、本気でやりきる意思があるか。AIはあくまで手段であり、目的は顧客にとっての価値にある——これは、どれだけ技術が進んでも、変わらないのだと思います。

「人がいないから」と新規事業をあきらめてきた地方・中小のプレイヤーにとって、いまは、その前提を一度問い直してみる、よい潮目なのではないでしょうか。

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